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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)906号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人訴訟代理人等の上告理由は末尾添附別紙記載のとおりである。

しかし(一)本件の如く現任支店長の存する支店における支店長代理は営業に関する一切の行為を為し得る権限を有しないのが通常であり少なくとも「支店長代理」なる名称自体から商法第四二条にいう「支店の営業の主任者たることを示すべき名称」ということは出来ない。それ故原審が同条を適用しなかつたのは当然である。(二)原審が民法第一一二条の適用もないものの如く判示したのは相当とは思えない、蓋し原審認定の事実だけで訴外岩井が退職した事実を相手方が知つて居り又は知らざるにつき過失あつたものと認めることは出来ないからである。(三)しかし本訴請求が是認される為めには右一一二条の適用があるだけでは足りない。蓋し原審の認定した処によれば右岩井は在任中においても手形の引受保証等を為す権限は全然無かつたものだからである。(四)それ故本訴請求が是認される為めには民法一〇九条の適用があるか、又は右一一二条の外になお一一〇条の適用ある場合で無ければならない。(五)しかるに原審は被上告会社は岩井に右の如き手形行為をする権限を与えた旨を表示した事実はないと認定をして居るから(支店長代理という職名を与えただけでは手形行為の代理権迄も与えた旨の表示とはいえない。後記参照)一〇九条だけで本訴請求が是認されることは有り得ない。(六)いずれにしても一一〇条の適用ある場合でなければならない。しかし一一〇条によつて請求をするには請求者即ち本件にては上告人において同条にいう「正当の事由」を主張立証しなければならない。そしてこの点について上告人が原審において主張した事実は『銀行取引において支店長代理は手形行為につき一般に権限があり且引受、支払保証は通常銀行業務に属すること明であつて支店長代理にその権限があると信ずるのは一般商人にとつて当然である』こと若しくは右のことを前提とするものだけである。しかるにその前提たる『支店長代理が手形行為につき一般に権限を有する』という事実は裁判所に顕著な事実ではないし、原審はこれを認むべき何等の根拠がないとして否定して居るのであるから原審が一一〇条を適用しなかつたのは当然である。要するに原審の認定した事実を基礎とすれば本訴請求を是認すべき理由はない。以上説示した事項に関するもの以外所論は総て最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律所定の上告理由に当らないことは勿論又同法にいう法令の解釈に関する重要な主張を含むものでもない。

よつて民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八五条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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